「自社の置かれている状況を把握したいが、どうすれば良いか分からない」
「事業戦略を立案したいが、どこから手を付ければ良いだろうか?」
この様な場面に遭遇した経験はないでしょうか?
PEST分析は私たちを取り巻く世の中の状況(マクロ環境)を客観的に分析し明らかにするためのフレームワークです。
特に企業において経営・事業戦略を立案する際に世の中の動向を把握する手段として良く使われます。
この記事ではPEST分析の概要・目的・やり方について簡単な事例をご紹介しながら解説致します。
冒頭のような悩みをお持ちの方や、これから経営やマーケティングについて学びたいとお考えの方に是非ご覧頂きたい内容です。
PEST分析を正しく理解し、自社の置かれた状況を把握できるスキルを身に付けましょう。
PEST分析とは? ~自社の外部環境を分析する方法~
PEST分析は、米国の経済学者フィリップ・コトラー教授によって提唱されました。
PEST分析では広く世の中の動向を見つめる事に主眼が置かれており、自社にとって重要と思われる項目を客観的に抽出し分析する「マクロ環境分析」です。
世の中の動向を広く見つめるといっても、ただ「やみくも」に世の中の動向を見つめるわけではなく、ある定まった4つの視点で分析をおこないます。
4つの視点とは下記の通りです。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
この4つの視点の英語の頭文字だけを読んで「PEST分析」と呼ばれています。
経営や事業運営に対して影響が大きいと思われる外部要因を4つの視点として巧みに整理したところがPEST分析の秀逸なところです。
これらの視点でマクロ環境(外部環境)を分析する事により、自社の経営や事業運営に影響を与える重要な項目を、抜け漏れなく効率的に抽出する事を可能にしています。
PEST分析の目的とメリット
上記ではPEST分析の概要についてご説明してきました。
ここではPEST分析の目的とメリットについて解説していきます。
PEST分析の目的
PEST分析の目的は、世の中の動向を広くとらえ、自社に影響を及ぼす環境要因とその影響を把握する事にあります。
さらにその先には、自社にとっての機会(チャンス)や脅威を見出したり、自社の事業戦略を検討する上での判断材料にしたりする目的があります。
PEST分析は世の中の情報を幅広く集めつつ分析をしていきます。
そのため、何となく分析を進めて行くと単なる情報整理をするだけになってしまいかねません。
常に目的を意識ながら実行することが重要です。
PEST分析のメリット
PEST分析は自社の外部環境を分析する「マクロ環境分析」である事を既にご説明致しました。
3C分析など環境分析を目的とした分析手法は他にもありますが、PEST分析以上に分析範囲が広い手法は他にありません。
何しろ、PEST分析の分析対象は「世の中の動向全般」ですから。
実は、この分析範囲の広さがPEST分析のメリットです。
幅広い情報の中から自社に影響する要因を見出し、その影響を予想できるため、大局的な判断や戦略立案に結び付けることが出来るのです。
PEST分析のやり方と分析の事例
ここからは、PEST分析を実際に実施できるようになって頂くために、分析のやり方について解説致します。
併せて、簡単な分析の事例もご紹介していきます。
PEST分析は広く世の中の動向を分析対象としており、その分析範囲の広さがメリットであると先ほどご説明しました。
これは他の分析手法にはないPEST分析のメリットです。
しかし、やり方を間違えると、この分析範囲の広さがデメリットになってしまう場合もあります。
なぜならば、分析対象の範囲が広すぎるため、世の中の動向の全てを丁寧に取り扱っていくと手間がかかりすぎるうえに、情報量が多くなり過ぎて上手く整理できないからです。
そこで提唱されたのが、冒頭にご説明した4つの視点を活用して分析する方法です。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
あらかじめ4つの視点を持って分析する事によって、沢山の情報も整理しやすく扱いやすいものになります。
また、世の中の動向のすべてを丁寧に分析するのではなく、自社に対する影響が大きい動向のみを選んで分析する事によって、分析作業を効率的に実施できます。
PEST分析では、自社に対してどの程度の影響があるのかを見極め、さらに4つの視点を意識しながら分析を進めて行く必要があります。
以下では、4つの視点について、事例を示しながら詳しく解説致します。
政治(Politics)の視点
法律、規制、税制、などの施行・改定や、各種政策の動向、国際関係、などがこの視点に含まれます。
例えば、国内の動向であれば、
- 消費税率Up
- 働き方改革関連法の施行
- 北方領土問題
海外であれば
- 香港の国家安全維持法の成立
- イギリスのEU離脱
などがあげられるでしょう。
経済(Economy)の視点
為替、株価、金利、経済成長率、景況感、失業率、などがこの視点に含まれます。
例えば、海外との取引が多い企業は為替レートによって収益が大きく変わりますので、その動向を捉える事は、外部環境分析の分析項目として大変重要です。
社会(Society)の視点
人口動態、所得の変化、教育環境、ライフスタイルの変化、などがこの視点の代表例です。
例えば、
- 少子高齢化
- 過疎化
- 共働き世帯の増加
- 終身雇用の終焉
などです。
技術(Technology)の視点
基礎技術、応用技術、生産技術、IT技術など、のあらゆる技術はもちろんの事、知的財産やそのライセンスの話題なども含まれます。
革新的な技術が登場すると世界規模で大きな影響があり、それまでの経営において”常識”であった事が、突然”常識ではなくなる”事も少なくありません。
例えば、以下の様な事例があげられます。
- インターネットの普及によりデータに関する時空の概念が変わった
- 電子決済の普及により現金を使用する人が減った
- スマートフォンやタブレットの普及と高性能化によりパソコンの地位が低下した
PEST分析とその他の分析 ~SWOT分析、3C分析、5フォース分析、VC分析~
PEST分析はあくまでも環境分析です。
自社を取り巻く環境を分析する事には適していますが、それだけですべてを理解できるわけではありません。
3C分析、5フォース分析、VC分析など他の分析と組み合わせて、多面的な分析を試みる事が大切です。
それらの分析結果と併せてSWOT分析を実施したり、さらにSTP分析を経て、自社に適した戦略を立案する事も意識してください。
SWOT分析とPEST分析
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境に関して、好ましい状況(ポジティブな状況)と好ましくない状況(ネガティブな状況)を洗い出すことによって、企業の現状を明確にすることを目的とした分析手法です。
(内部環境 & 外部環境) × (好ましい状況 & 好ましくない状況)のマトリックスで現状を分析すると4つの観点で現状が見えてきます。
- 内部環境のポジティブな状況 → 企業にとっての強み(Strength)
- 内部環境のネガティブな状況 → 企業にとっての弱み(Weakness)
- 外部環境のポジティブな状況 → 企業にとっての機会(Opportunity)
- 外部環境のネガティブな状況 → 企業にとっての脅威(Threat)
SWOT分析は「自社」に注目し、自社を様々な角度から見つめて「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの観点に整理し自社の現状を把握する手法として、しばしば用いられています。
SWOT分析では、自社を様々な角度から客観的に分析する必要があるため、事前の情報収集が欠かせません。
PEST分析によって得られる分析結果もその一つです。
PEST分析を実施し世間の動向から受ける自社への影響を深く理解する事で、今までは気付いていなかった自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」が見えてくるかもしれません。
SWOT分析を実施する際には事前にPEST分析も実施しておく事をおすすめします。
3C分析とPEST分析
3C分析は「外部環境分析」と「内部環境分析」の両方の観点をあわせ持った分析で、外部環境である「顧客」と「競合」、内部環境である「自社」の3つの視点で自社を取り巻く環境を分析するフレームワークです。
それぞれの視点の英語の頭文字が「3C」分析の名前の由来です
- 顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
3C分析では、自社の事業を取り巻く「環境」として顧客、競合、自社の3つの視点で分析を行います。
より範囲が絞られてはいますが、比較的広い視野で「環境」を分析しようとしているところはPEST分析と同じです。
しかしPEST分析は「自社」に注目して、自社に影響がある環境要因を世の中の動向全般から抽出する事によって、世の流れの中にある自社の状況を把握するのに対し、3C分析では「顧客」「競合」「自社」に注目し、それぞれが置かれた現状を把握する事によって、自社の事業の環境を3つの切り口で把握しています。
PEST分析に比べると、3C分析の方がより限定的な範囲において詳細に分析していると言えます。
把握したい環境の範囲と詳細さの違いによって使い分けると良いでしょう。
もちろん、両方の手法で環境分析を実施すれば、自社のおかれた環境や、自社対する影響をさらに網羅的に分析する事ができます。
5フォース分析とPEST分析
5フォース分析(5Force Analysis)は、かの有名なハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授によって提唱された分析手法です。
ある業界に影響を与えている5つの力(Force/フォース)を分析する事によって「業界の収益性(収益をあげやすい業界かどうか)」、また、その収益性がどの様な要因(理由)で決まっているのかを見極める事を目的とした分析手法で、以下の5つの力について分析を行います。
- 競合との競争
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
PEST分析を一言で言い表せば
「自社」に影響する世間の動向を分析する手法
と言えますが、5フォース分析は
「業界」の収益の上げやすさとその要因を探る手法
と言えるでしょう。
分析対象(自社/業界)も、把握しようとしている事柄(自社への影響/業界の収益性と要因)も異なる事が分かりますね。
バリューチェーン分析(VC分析)とPEST分析
バリューチェン(VC)とは「価値提供のプロセスフロー」の事であり、バリューチェーン分析とは企業の価値提供プロセスを分析する事に他なりません。
つまり顧客に提供している商品やサービスの「価値」が企業のどの様な活動を経て生み出されているのか、事業活動プロセスを形成している個々の活動に分解して分析する手法です。
バリューチェーン分析(VC分析)は主に自社の事業活動プロセスに対して実施されるものですが、事業活動に関する情報があれば他社のバリューチェーンを分析する事も可能です。
企業の活動は「主活動」と「支援活動」に分類され、それぞれ以下の様な活動(機能)であるとされています。
- 主活動: 購買物流 → 製造 → 出荷物流 → 販売 → アフターサービス
- 支援活動: 全般管理(総務、経理、情報など)、人事・労務、技術開発、調達
- 利益: 販売価格から主活動と支援活動に要したコストを差し引いた額
バリューチェーン分析において分析されるべき対象は「主活動」であり、この主活動において効率的に付加価値を高める事が企業の優位性につながるのです。
マクロな環境を分析するPEST分析とは大きく異なり、バリューチェーン分析は、企業の事業活動プロセスという限定的な分析対象を詳細に分析できます。
特徴が大きく異なる2つの分析は併用する事で効果を高める事ができます。
例えば、先ずはPEST分析でマクロな視点で外部環境を分析しておき、そのうえでバリューチェーン分析を実施すれば、自社のバリューチェーンに今までは気付かなかった強みや課題がある事が分かるかもしれません。
また、自社のバリューチェーンを強化し、より効率的なものにするための戦略のアイディアも見出せるかもしれません。
まとめ
今回は、マクロ環境分析(外部環境分析)に適したフレームワークPEST分析をご紹介しました。
PEST分析は長期的な戦略を立案する際の起点となる分析手法です。
ぜひ有効活用して、その後の戦略立案へと繋げていってください。