もしあなたが経営者で何らかの店舗を経営していたら、あるいは社員や店員として店舗を運営していたら、一度はこんな事を考えた事があるはずです。
「このお店の売上をもっと増やす方法はないだろうか?」
今回は、そのような悩める店舗経営・運営者の皆様に役立つ理論【インストアマーチャンダイジング(ISM)】についてご紹介したいと思います。
インストアマーチャンダイジング(In Store Merchandising/ISM)とは?
インストアマーチャンダイジングとは何か? まずは、そこからご説明したいと思います。
インストアマーチャンダイジングはマーケティングにおける理論の一つで、英語で書くと(In Store Merchandising)です。しばしば「ISM/イズム」と省略されて呼ばれる事もあります。
インストアマーチャンダイジングの根底にある考え方をできるだけ短く表現すると「限られた売り場において売上と利益を最大化するための活動」となります。
もう少し分かりやすく表現しますと、「店舗に来た顧客にできるだけ多くの商品を購入してもらい売上と利益を向上させる事を目指した活動」と言えますが、これでもまだ分かりにくいと思いますので、以下で具体的な事例を示しながらさらに詳しくご説明します。
インストアマーチャンダイジングの事例| ゴールデンライン・クロスマーチャンダイジング・POPの工夫
実際に店舗運営に関わっておられる皆さんも、そうでない皆さんも少しお考えください。
あなたは、あるスーパーの店員でお菓子の売り場の担当です。先ほどあるメーカーのスナック菓子が納品されたので売り場の棚に陳列しようとしています。このスナック菓子はメーカーが新たに発売した新商品で、利益率が高いうえ、ある数量以上に販売できれば次回の仕入れ値を割り引いてもらえる事が確約されているとします。
一方で、お店の方針として値下げはしない事が決定されています。。。
これはすべて作り話ですが、もし実際にこの様なシチュエーションになったら、お店としては何が何でもこのスナック菓子を大量に売りたいと考えますし、売り場の担当者であるあなたはその成果を強く求められるはずですよね。
では、このシチュエーションで問題のスナック菓子をできるだけ大量に売るためにはどうしたら良いでしょうか?
しかも値下げをしないで。。。
さて、この問いに対する回答を得るために、今度は、このお店に来た顧客になってみてください。
あなたはこのお店の顧客で、今日は夕飯の食材と明日開催する予定のホームパーティ用にスナック菓子を買いに来ました。スナック菓子は食材のついでの買い物なので、どのメーカーのどのスナック菓子を買うかなんてまったく決めていません。さて、立ち寄ったお菓子の売場であなたが購入したスナック菓子は次のうちどちらである可能性が高いでしょうか?
- 自分の視線の高さに陳列してあるスナック菓子
- 棚の一番下の足元に近いところに陳列してあるスナック菓子
もうお分かりでしょうか?あなたが購入する可能性が高いのは、1の「自分の視線の高さに陳列してあるスナック菓子」です。
言われてみれば当たり前ですが、私たちがお店で何かを買おうとするときに商品が目につきやすいは、自分の視線の高さと同じくらいの場所です。なぜなら、自分が自然に視線をおいている高さにあるものは、見ようとしなくても勝手に視界に入ってくるからです。
つまり。。。
あなたが売りたいと考えている商品は、多くの人の視線に入りやすい高さに陳列する必要があります。
少なくとも棚の一番下の足元に近い場所ではありません。
これは顧客の視線に注目してより多くの商品を購入してもらえる高さに販売したい商品を陳列するという手法です。
ちなみに、顧客の視線が集まりやすい棚の位置(高さ)は「ゴールデンライン」と呼ばれています。
この様に売場の商品の陳列などを工夫する事で商品の販売量と売上の向上を目指すのがインストアマーチャンダイジングです。
売場の工夫は「ゴールデンライン」の他にもあり、主なものとして以下の様な手法があります。
- ゴールデンラインを意識する
- 棚の最前面に配置する商品の比率を工夫する
- クロスマーチャンダイジング(組み合わせ提案)
- POPを工夫する
それぞれについて事例をまじえて少しご説明しましょう。
ゴールデンラインを意識する
ゴールデンラインについては既に上でご説明した通りです。とにかく顧客の目線を意識して商品を陳列するのがその考え方の基本です。
ところで、棚に商品を陳列する場合、一般的には床から80cm~140cm程度の高さがゴールデンラインと言われています。ただしこれはあくまでも一般論であり、ターゲットとしている顧客や店舗の形態によってゴールデンラインは変わります。
もしあなたが小学生を主要な顧客とする「駄菓子屋」の店舗を運営しているとしたら、ゴールデンラインは一般的な高さより低くなります。
なぜなら、特に低学年の小学生には140cmの高さは高すぎますよね。きっと商品が目にとまりにくいはずです。。。
つまり、顧客の層や店舗のつくりも考慮しながら「ゴールデンライン」を見極める必要があります。
*ゴールデンラインに関しては下の記事で詳しく解説しています。
棚の最前面に配置する商品の比率を工夫する
同じ棚の同じ高さに、複数の銘柄の商品が並んでいる場合は、棚の最前面に多く並んでいる(つまり棚の最前列の占有率が高い)銘柄の販売量が増えます。これは棚の最前列にたくさん陳列されている銘柄の方が「売れている」、と顧客が心理的に感じるからだと言われています。
優先的に販売したい商品がある場合はゴールデンラインを意識した高さの工夫だけでなく、最前面の占有率も工夫すると良いでしょう。
クロスマーチャンダイジング(組み合わせ提案)
クロスマーチャンダイジングもインストアマーチャンダイジング(ISM)の手法の一つで、ひとことで表現すれば、
商品同士を組み合わせて顧客に提案し販売する方法 です。
冬にスーパーの生鮮食料品売場に行くと、野菜・肉・魚が陳列してある近くに「鍋料理の出汁」や「スープの素」が陳列してありしませんか?
あるいは、酒類コーナーの近くにおつまみが並べられているのを見かけませんか?
これらは「鍋の材料」×「鍋の素(出汁)」や「お酒」×「つまみ」といった具合に、同時に消費される事が多い商品同士をセットで販売する事を狙ったものです。
顧客に利用シーンを明確に連想させる(提案する)事によって購入してもらいやすくなり、それぞれを個別に販売するよりも販売量が増える、という訳です。
*クロスマーチャンダイジングに関しては下の記事で詳しく解説しています。
POPを工夫する
販売したい商品の販促用のPOPに工夫を加える事も、インストアマーチャンダイジングとして効果的です。
- POPを視線と同じ高さに目立つように表示する
- POPを「見やすく」「ポイントが一瞬で伝わる様に簡潔明瞭」に書く
皆様がお店でPOPを見るとき、どれくらいの時間そのPOPをみつめているでしょうか?
おそらく見ているのは1~2秒程度でじっくり眺める事はないはずです。
つまり、じっくり見ないと理解できないPOPは役に立たないのです。。。
インストアマーチャンダイジングの本質は顧客の行動と心理に対する売場の最適化
この様に、インストアマーチャンダイジングとは「顧客の行動や心理」を理解したうえで、それに応じた対策を店舗のあらゆる場所で実施する事により、売上と利益を最大化する活動の事を言います。
業態や店舗にもよりますが、スーパーの様な店舗では、90%の商品がその場で購入の判断をされており、最初から計画的に購入されているものは10%程度だと言われています。
つまり、売りたい商品の購入について、顧客がその場で購入を決めてくれるように売り場を最適化する事によって、売上と利益を大きく増やすことができる可能性があるのです。
顧客の行動や心理にあわせて店舗運営の見直しを!
実際に店舗を運営されている皆様は、ご自身の店舗の状況が顧客の行動や心理に対して適切に運営されているか、見直すべきところはないかと、定期的に検討する事をおすすめします。
陳列や棚の配置、POPや広告の見せ方、顧客が移動する動線など、今よりも改善できるポイントがあれば、売上や利益の増加につながるかもしれません。