市場において競争するにあたり、競合と差別化をはかり、より優位に事業を展開する事は極めて重要な要素です。
しかし、それは容易な事ではなく
- どのような施策を実行すれば優位性を確保できるのか?
- 優位性を確立するのに有効な施策を立案できる良い方法はないか?
と思い悩む方も多いのではないでしょうか?
この様な悩みを解決するのに役立つフレーム分析の1つに、バリューチェーン分析(VC分析)があります。
この記事では、まずバリューチェーン(VC)の概要と例についてご理解頂き、続けてバリューチェーン分析(VC分析)のやり方と活用方法について解説していきます。
この記事を読めばバリューチェーン(VC)とバリューチェーン分析(VC分析)のやり方について理解でき、有効な事業戦略や施策を立案するのに役立つ情報を、VC分析を通して得る事ができるようになります。
- 自社の事業の強みや弱みを把握したい
- 自社の経営課題を明らかにしたい
- 競争優位を確保するために効果的な施策を実行したい
といった前向きなお悩みを抱えている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
バリューチェーン(VC)とバリューチェーン分析(VC分析)
バリューチェーン(VC)とは、企業が事業活動を通じて顧客に「価値」を届けるための一連の流れ(フロー)の事を指しています。
つまり、原材料や部品などの調達活動・生産活動・出荷配送・マーケティング・販売・アフターサービスといった一連の事業活動を、個別のプロセスとして捉えるのではなく、価値(Value)の連鎖(Chain)として捉える考え方です。
このバリューチェーンを可視化したうえで、事業活動のそれぞれのプロセスにおける「コスト」を明らかにして、その結果として「どの程度の付加価値」が生み出されているかを理解するのがバリューチェーン分析(VC分析)です。
まずここでは、バリューチェン(VC)とバリューチェン分析(VC分析)について詳細に解説致します。
バリューチェン(VC)は「価値提供のプロセスフロー」
バリューチェーンの理論は経済学者のマイケル・ポーター教授によって提唱されました。
ポーター教授が提唱した理論によれば、企業の活動は「主活動」と「支援活動」に分類され、それぞれ以下の様な活動(機能)であるとされています。
- 主活動: 購買物流 → 製造 → 出荷物流 → 販売 → アフターサービス
- 支援活動: 全般管理(総務、経理、情報など)、人事・労務、技術開発、調達
- 利益: 販売価格から主活動と支援活動に要したコストを差し引いた額
これを図で表現すると下記の様になります。
【図1:マイケル・ポーター教授が提唱したバリューチェーン】
ここで、主活動は順序に従ってフローになっていますが、支援活動はフローにはなっておらず、それぞれの活動が独立している点にご注意ください。
詳細は後ほど述べますが、VC分析において分析されるべき対象は「主活動」であり、この主活動において効率的に付加価値を高める事が企業の優位性につながるのです。
ところで、VCのフロー図を作成する場合に注意すべき重要な事があります。
それは「自社の実際の業務フローに従ったフロー図を作成する」という事です。
マイケル・ポーター教授が提唱したVC分析では、事業のプロセスフローは前述の図1の様に描かれています。
しかし、多くの企業の事業活動はこの図とは少なからず違いがあるはずです。
例えば、顧客に販売する製品を自社開発している企業の多くは、どの様な製品を具現化すべきか事前に企画しているはずで、この場合は下記の図2の様に「製品企画」のプロセスを付け加えておく必要があります。
【図2:製品を自社開発している場合のバリューチェーン】
もし、あなたの会社が製造業ではなくサービス業を営んでいる場合には、「製造」のプロセスは無いのが普通ですし、購買物流も主活動ではないかもしれません。
自社のVCを可視化する際には、その事業活動の本流となっている事業活動(プロセス)が何で、それがどの様な順序で「流れ(フロー)」を形成しているのかを十分に吟味する必要があります。
尚、企業が営利目的で運営されている以上、プロセスフローの最後には「利益」を必ず加えなければいけません。
「利益」は、厳密に言えば事業活動のプロセスではありませんが、最終的には「顧客にとってのコスト」となるものであると同時に、「自社にとっての儲け」でもあります。
フロー図として可視化して明確に認識しておきましょう。
バリューチェーン分析(VC分析)の本質は「価値の成り立ち」を理解すること
バリューチェーン(VC)が可視化できたら、そのフローを構成する個々のプロセスについて分析を実施していきます。
一般的には以下の様な観点で個々のプロセスについて分析を実施します。
- 生み出されている価値は何か?
- コストはいくらか?
- 競合と比べて自社の「強み」や「弱み」になっているプロセスはどこか?
これらを把握することで
- 事業戦略上キーポイントとなっているプロセスが分かり経営資源投入の目安にできる
- 自社の強みと弱みを理解した上で競争戦略を立案できる
- 改善すべき経営課題のヒントになる
といった経営判断・事業戦略立案に役立つ情報を得ることができます。
そして得られた情報から適切な施策を立案・実行した企業は、より効率的に製品の付加価値を高めることができるVCを手に入れます。
その結果として、顧客により良い「価値」を提供できるようになるのです。
尚、前述の通り、VC分析において分析されるべきなのは「主活動」であり、この主活動から生み出される付加価値を高める事が企業の優位性を高めるポイントになります。
では支援活動には価値が無いのかといえば、そうではありません。
支援活動はVCのフローにこそ含まれませんが、その活動によって主活動の効率や付加価値を高めるサポートをしているからです。
バリューチェーン分析(VC分析)のやり方
ここではバリューチェーン分析(VC分析)のやり方・進め方について詳しくご説明します。
VC分析のやり方・進め方の流れは以下の通りです。
- バリューチェーン(VC)を構成するプロセスを明らかにしフロー図として可視化する
- 各プロセスで生み出される「価値」とそれに要する「コスト」を明らかにする
- 業界構造や競合のVCを考慮しつつ自社のVCの強みと弱みを把握する
- VC分析の結果をふまえ必要な戦略を立案・実行する
それぞれのステップについて、以下でさらに詳しく解説します。
STEP1:バリューチェーン(VC)を構成するプロセスとフローを可視化する
まずバリューチェーンを構成する各プロセスとそれらの流れ(フロー)を理解し可視化します。
そのために最初に取り組むのは、自社の事業活動を構成している「プロセス」をリストアップする作業です。
ここで言うプロセスとは、例えば
- 調達
- 生産
- 販売
- 物流
- アフターサービス
- 人事
- 技術開発
- 企画
- 各種管理
といった何らかの「機能」を持ったプロセスと考えると理解しやすいでしょう。
ここで注意して欲しいのは、「プロセス」は「組織」とは異なるという点です。
確かにプロセス単位と組織の単位は概ねイコールになっている事もありますが、一方で、1つの組織で複数のプロセス(機能)を担当している場合や、1つの機能が複数の組織をまたいで実施されている場合もあります。
自社の事業活動において実施されているプロセス(機能)を、もらす事なくすべてリストアップする事が重要です。
また、既にご説明した通り「利益」もバリューチェーンの最後のプロセスとしてリストアップしておく事を忘れないでください。
リストアップが終了したら、リストアップされたプロセスを「主活動」と「支援活動」に分類します。
「主活動」とは、自社の事業において「顧客に提供している価値」を生み出す事に、直接的に関与しているプロセスの事です。
逆に「支援活動」は、「顧客に提供している価値」を生み出す事に、間接的に関与している(直接的には関与していない)プロセスです。
同じ機能を持ったプロセスでも、企業の事業内容や提供している価値が異なれば、ある企業では主活動として認識されるプロセス(機能)も、別の企業では「支援活動」として位置づけられることもあります。
自社の事業内容や顧客への提供価値を念頭に、それぞれのプロセスが自社の事業内容にとって「主活動」であるのか「支援活動」であるのかを正しく見極めてください。
ちなみに一般的には「生産」「販売」「物流」「アフターサービス」などは「主活動」として分類される場合が多いです。
一方、「人事」「技術開発」「各種管理」などは「支援活動」に分類される場合が多いでしょう。
「主活動」と「支援活動」の分類が終わったら前述の図1や図2の様なフロー図を作成してください。
HSTEP2:各プロセスで生み出される「価値」とそれに要する「コスト」を明らかにする
フロー図が完成したら、各プロセス(機能)において生み出されている「顧客に提供している価値」を考え、図に書き込んでください。
もし「顧客に提供している価値」が分かりにくい場合は、
「自社商品の魅力を高めるためにこのプロセス(機能)が果たしている役割は何か?」
と自分に問いかけてみると理解しやすいかもしれません。
生み出される「価値」とともに、そのプロセスにかかる「コスト」についても図に書き込んでください。
そうする事で、個々のプロセスごとに「価値」と「コスト」のバランスが明らかになります。
つまり、「コスト」に見合った「価値」が適切に生み出されているかどうかが可視化され理解できるようになるのです。
STEP3:業界構造や競合のVCを考慮しつつ自社のVCの強みと弱みを把握する
ここまでの作業で自社のバリューチェーン(VC)の全体フローが可視化でき、さらに個々のプロセス(機能)が生み出す「価値」とそれに必要な「コスト」が明らかになったはずです。
ここで作業を終了しても得るものは沢山ありますが、これだけで終わってしまうのはもったいないので、さらに分析を深めていきます。
具体的には、VC分析から得られた情報と市場環境や業界構造とを考えあわせたり、競合のVCと比較したりして、自社のVCの強みと弱みを把握しましょう。
こうしてさらに分析を深めることによって、次に実施する戦略立案の成果がより実りのあるものになります。
尚、市場環境や業界構造の把握のやり方、他社のVCとの比較分析のやり方に関する具体的な方法については後ほど解説致します。
STEP4:VC分析の結果をふまえ必要な戦略を立案・実行する
ここまで来れば、
- 市場環境や業界構造を踏まえた自社のVCの強みと弱み
- 他社のVCと比較した上での自社のVCの強みと弱み
が把握できていますね。
その内容に応じて
- 経営課題の設定
- 課題解決のための施策の立案
- 立案した施策の実行
と進めていけば、施策の内容に応じた成果が得られるでしょう。
【5フォース・VRIO・STPとの併用】バリューチェーン(VC分析)の有効活用
ここまではバリューチェーン分析(VC分析)そのものに焦点をあててご説明してきましたが、ここでは5フォース分析・VRIO分析・STPといった、その他のフレーム分析との併用について解説します。
これらを上手く組み合わせて使用する事で、VC分析の結果をさらに有効に活用できるようになります。
【業界の成功要因を自社に取り込む】5フォース分析との併用
5フォース分析は業界構造を把握するのに適したフレーム分析です。
5つの視点で業界を分析する事により、収益性とその決定要因であるCSF(Critical Success Factor=主要成功要因)やKSF(Key Success Factor=成功要因)を明らかする事ができます。
5フォース分析で明らかとなったCSFやKSFは、業界で優位に事業を展開するうえで重要な「成功要因」ですので、これを達成するための施策を実行する必要があります。
この時にVC分析と組み合わせると、どのプロセスでどの様な「価値」を生み出せば「成功要因」を達成できるのかを見極める事ができます。
つまり業界における成功要因を達成するために必要な施策を、自社の事業活動に適切に取り入れることができるのです。
【競合に対する優位性を探す!】VC分析とVRIO分析の併用
VRIO分析とは自社の保有する経営資源が競合と比較して優位な強みになり得るのか、また、それはどの程度であるか、を把握することができるフレーム分析です。
VRIO分析は以下の4つの観点について段階的に分析をおこないます。
- 経済価値(Value)
- 希少性(Rarity)
- 模倣困難性(Inimitability)
- 組織(Organization)
このVRIO分析を使って自社のバリューチェン(VC)の個々のプロセスを分析すれば、それぞれのプロセスが競合と比べてどの程度優位性があるのかを把握する事ができます。
競合との比較において自社の強みと弱みをより明確に理解することができるというワケです。
【戦略立案の質が大幅に向上】VC分析結果をSTPに反映
STPとは、自社が狙いたい市場(顧客・消費者)を明確にし、その市場に対してどの様な価値を提供していくのかを決めるフレームワークです。
事業戦略そのものを決定する重要なプロセスと言えるでしょう。
STPは3つのステップを経て戦略を練り上げていきます。
- セグメンテーション(Segmentation)
- ターゲティング(Targeting)
- ポジショニング(Positioning)
STPのステップを経て戦略を立案する際に、事前にバリューチェン分析(VC分析)を実施して競合に対する自社の強みと弱みを把握しておくと、それが戦略立案において有益な情報となります。
特に最後の「ポジショニング」のステップにおいて、その方向性を左右する重要な情報源となるはずです。
まとめ
この記事ではバリューチェーンとバリューチェーン分析(VC分析)について解説しました。
バリューチェン分析(VC分析)を通じて自社の事業活動を詳細に把握し強みや弱みを理解できます。
分析で得られた情報を、適切な経営戦略・事業戦略へとつなげていってください。